Sister Syndrome 第五話
毎朝、可愛い妹と一緒に登校できる幸せ。同じ学校じゃないというのも、何となく萌える要素だな。
もう、忘れようアノ事は……何か悪い夢だったんだ。そう、あれは俺のこの羨まし過ぎる環境を嫉んでの呪い。生霊攻撃に違いない! 絶対そうだ。
と、誰の仕業かも分からないモノに変換し、俺は納得した。
――学校。
何時ものように、何時もの如く黄昏れてると、
「よう、相変わらずだな。お前」
そう言って声を掛けてくるのは、例によって真二だった。俺はちょいぼけた感じの顔を、真二に向ける。
「んあ?」
「それよかさ、見たぜ」
「はぁ? 何を見たって?」
少し興奮気味に真二が言うが、俺には何の事やらさっぱりだ。
「惚けんなよ」
惚ける? 俺が? つう事は俺に何か関係あんのか?
ん~エロ本は拾った覚えはねぇし、DVDも買った借りたも最近無い。
「何の事だ?」
「そこまで惚けるとは、俺は悲しいぞ」
益々もって訳わからん。
「だから、何だっつんだ」
「彼女が出来たなら出来たって、言ってくれてもいいじゃんか」
真二がにやけた顔でそんな発言をした。か、彼女ですか? 俺って、何時の間にそんな嬉しい事になってたんだっけ?
「誰の彼女だ?」
「誰って、お前のに決まってんだろぅが」
「はい?」
寝惚けた脳みそに血液が一気に流れ、フル回転する。だが……。
どうなってんだ? 俺に彼女なんて……誰かと勘違いしてんのか? まさか、俺と唯の事を言ってんのか? ありえんぞ、だいたい目撃するには道が逆だし。
「にしても、お前がロリ萌え好みだったとはなぁ」
腕組みをし、首を縦にウンウンと頷きながら真二が言った。
「萌えだと? 何言ってんだよお前は」
「またまたぁ。誰だ? あのセーラー服美少女は」
俺を覗き込むように真二が迫る。ちょい待て、俺にはそんな趣味はねぇぞ。
にしてもセーラー美少女……やはり唯の事か。こいつ、何処で目撃したんだ? くそっ、俺とした事がミッションに失敗するとは。軍曹が言っていたな、失敗は死を意味すると。
「なんだ、それか」
急接近した顔を離し、俺は背もたれに身体の半分を任せた。
ふっ、捕虜になっても俺は負けないぜ。
「何だって、それだけかよ」
不服そうな真二。俺だって声を大にして叫びたいが、だが、それだとあまりにもアレだろ? 俺の敗北を意味するのだよ。
「だってよ、唯は……」
「へぇ、唯ちゃんていうのか。可愛いねぇ」
「俺の妹だ」
「へ?」
まさにこれ、鳩がまめでっぽう食うって感じで、真二がフリーズした。まぁ、世の中、予想外の答えが自分を襲ったとき、誰しも起こす現象だろう。
――数秒。
「今、何て言った? 確か妹と」
再起動した真二の思考回路が、数秒前の出来事から復帰した。
「そうだけど」
こいつの驚いた顔見るのも、面白いな。
「だって、お前は単品だろ?」
「単品て何だよ。一人っ子って言えよ」
「どっちでもいい。それよか、隠し子か何かか?」
相変わらず立ったままで、疑問符を投げかける真二。
「んな訳ねぇじゃん。再婚したんだよ」
「へ? 親父さんが?」
「そりゃそうだ、俺な訳ねぇだろ」
「だよな」
「だよ」
「でも、良かったぁ」
「何がだ」
この安心しきった顔。まさかとは思うが……。
「唯ちゃんが……」
「ダメだ」
「まだ何も言ってねぇけど」
真二の言葉を遮るように、即答且つ否定的な答えを入れる俺。
全部言わなくてもだいたい分かる。何年こいつと腐れ縁やってんと思う。
「お前の魂胆は予想がつく」
「何だよそれ」
再び不服そうな真二に、俺は念を押すように続けた。
「唯は、俺の妹だからな」
「何だよそれ……ふ~ん、随分と過保護的発言だな」
ニヤケた顔の真二が、俺を見下ろしながら言う。お、俺は負けんぞ。
「そ、そうか?」
「ああ」
「で、誰が過保護ですって?」
そんなやり取りの中、少し威圧的な感じの声が割って入る。俺と真二はほぼ同時に、声のした方へ視線を向けた。丁度俺からは真後ろ、真二にとっては正面の位置になる。
そこには、亜利未が腰に手を当て立っていた。
俺は、椅子の背もたれを抱きかかえる様に座りなおし、身体を後ろに向けた。
真二は腕組みのまま立っている。
「面白そうな話ね」
何処と無く、不機嫌そうな顔の亜利未。気のせいか? まぁいいか。
「別に面白かねぇよ」と俺は言うが、
「それがな亜利未。こいつに、何と! 妹が出来たんだってよ」
組んでいた腕を解き、大げさな身振りで真二が伝えた。
亜利未は、うそ~と言わんばかりの表情で驚くが、
「へぇ、でもアンタんとこって父子家庭じゃなかった?」
「まぁな」
「ま、まさか……」
こいつも、隠し子? なんて事言うんだろ? 分かってるって。
「アンタの父さんて、実は女だったのね」
な、何故~っ! そんな発想が出てくるんだ。マジで言ってんのかよ。
「お前なぁ、どっからそんな事になんだよ」
「だってさ、父子じゃ絶対無理でしょ? て、事は母子しかないじゃん」
「ったく、親父が再婚したんだよ」
利口だと思ってたのによぉ。時々、天然なんだよなぁこいつは。
「……だよねぇ、アタシもそうじゃないかなぁって思ってたんだぁ。あははは」
照れ隠しか、ばつが悪そうに苦笑いする亜利未。何が、そうじゃないかって? さっきまで、確信に満ちた目で語ってたくせに。
「でもさ、妹って事は、最近流行りのデキちゃった婚てやつ?」
「それがよ、違うから面白いんだよ」
真二が亜利未の左隣に場所を移し言う。
「違うの?」
「違うんだよ」
「どう、違うのさ」
「こいつ、妹っていう割には、仲良く並んで学校行ったりしてんだぜ」
何言い出すんだよコイツは! 間違ってねぇが、改めて言われると恥ずかしいじゃねか。
「ふ~ん、仲良くねぇ」
亜利未が屈みながら俺の方へ顔を近づける。それも、含み笑いしながらだ。
「な、何だよ」
「随分と妹思いなのねぇ」
そりゃそうさ、あんなに可愛いんだぞ。物騒な世の中、何が待ち受けているか分からない。その世界から守ってやるのが兄として、否、男としての勤めなのだよ。
「ま、まぁな」
「で、何処の保育園なの?」
「へ?」
「違うの? じゃぁ幼稚園?」
どうやら亜利未は、妹が幼児だと思っているようだ。
「違う違う」
真二が右手を左右に振りながらニヤケる。そして、一瞬視線を俺の方へ、
「実は、中学生なんだぜ」
「うそぉ~」
「それがマジでさぁ。俺なんか彼女と勘違いしたんだぜ」
「へぇ~中学生ねぇ~ふ~ぅん」
「それがどうしたよ」
「アンタ、ロリィ?」
そう言うと微笑む亜利未。
何ですか? その意味ありげな微笑みは。で、言うにことかいてろりぃって事ぁ無いでしょうよ。俺はその辺に居る変態オヤジじゃないぞ……だぶん。
言い切れないのが辛いぜ。何せ、日々妄想列車が暴走中だもんなぁ。って、そんな事言える訳ねぇしな。
「何でそうなるんだよ」
「だって、ねぇ」
ねぇ、の言葉と同時に同意を真二に求め、二人して小首を傾げた。
その息ぴったりな行動はどうなの? 可愛い……んな訳ねぇだろっ!
「ったく、付き合ってらんね」
言いながら俺は後ろを向いた。
これ以上突っ込まれると、いらん事も暴露ってしまいそうだし。
――だが、そんな俺の気持ちを無視するかの如く。
「何、勝手に後ろ向いてんのよ」
と、来たもんだ。どう言う事だよ亜利未、後ろじゃなくて状況的には正面になるんだけど。
つか、勝手にって、何時から指導権がそっちに行ったんだ?
「そうだぞ、話はまだ終わってねぇ」
おい真二、お前まで俺の敵に回るのか? 同盟国じゃないかっ! 期限切れかよ。
くそっ、俺は一人でも戦い抜くぞ。そう、これは愛する大切な妹を、悪の改造から守るための必要な戦いなのだ。見てろよ唯! お兄ちゃんは愛の為に死んでみせる!
いや、駄目だ駄目だ。死んでしまっては唯が悲しむ。愛する人の涙はもう沢山だ!
「俺は断固として、悪に屈しないっ! 来るなら来いっ!」
俺は握り拳を天高く突き上げ、叫んだ。
「そうか、じゃこの問題解いて見ろ」
「はい?」
せ、先生……何時の間に?
――妄想の時は、三倍のスピードで流れるぜ。
認めたくないものだな、自分自身の、若さ故の……以下略。
つづく
ネット小説ランキング>現代コミカル部門>「Sister Syndrome 妹症候群」に投票
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
| 固定リンク
「学園コメディ」カテゴリの記事
- Sister Syndrome 第七話(2009.04.06)
- Sister Syndrome 第六話(2008.11.13)
- Sister Syndrome 第五話(2008.09.20)
- Sister Syndrome 第四話(2008.07.23)
- Sister Syndrome 第三話(2008.05.21)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント