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Sister Syndrome 第四話

 外は暗く静かで、時折、車が前の通りを過ぎてゆく音が聞こえる程度だった。
 俺は机にある電気スタンドを灯し、進まない宿題をその上に広げていた。ふと、天井を仰ぐように見詰めると、脳裏に浮かぶのは涼子さんの事だ。だって、下着着けてないんだぞ。それじゃ、寝る時もなのか? 今この時間も、彼女はベッドの中で……まさか全裸とか? いやぁ、照れちゃうなぁ。
 待てよ、て事はだぞ、あの母に育てられた唯も、ひょっとして……ひょっとするかも? あ、でも朝はパジャマ着てたな。それとも、起きて来るのに、全裸じゃ都合が悪いから着て来たとも考えられる。
 うん、この説は有力だ。

 俺は宿題に一区切りを付け、何か冷たい物でも飲もうとキッチンに向かった。時計は既に日付が変わり、二時間を過ぎようとしていた。
 二人を起こさないように、そっと、ゆっくり静かに階段を下った。
 すると、リビングのダウンライトが灯っているのが見えた。オレンジ色の光が、ドアのガラスから漏れていたのだ。
 消し忘れか? 俺はキッチンではなく、リビングへと足を向けた。
 ドアを開けると、そこには三人掛けのソファーの真ん中に座る、涼子さんの姿が飛び込んできた。
「りょ、涼子さん」
「ん?」
 俺の言葉に、涼子さんは反応し、上半身を少し捻り俺の方へと身体を向けた。白い長襦袢(ながじゅばん)が少し崩れ、胸元が大きく開いた。
「あら、ルードリッヒ。どうしたの?」
 彼女は胸元を直す事もせず、俺にそう言った。今にも、その大きな乳房が零れ落ちそうなくらいだった。
 くぅ~、何て艶っぽいんだぁ。そして、テーブルに視線を移すと、そこには日本酒だろうか、徳利とお猪口が置かれていた。……飲んでるんだ。
 と、思いつつも俺の視線は再び胸へ。うわぁ、結構デカイんだなぁ。
「えっと、何か冷たい物でも飲もうかと思って」
「ふぅん、そう……じゃ、あたしと一緒に飲むぅ?」
「え? まさか、俺はまだ学生ですよ」
「ふふふ、真面目なのね」
「ははは、そうですか?」
「そうよ、今時珍しいわ……ねぇ、ここ、座らない?」
 涼子さんはそう言って、俺に隣に座るよう勧める。相変わらず、長襦袢は直そうとしない。誘ってるのか? まさか、涼子さんに限って。いや、しかし……バカとは言え親父と再婚までしたのに、いきなり出張で居なくなったんだ、もしかしたら寂しいのかもしれない。え? 何だ? それじゃ、俺はあのバカ親父の代わりか?
 って、んな事たぁどうでもいいか。俺は、言われるままに腰を下ろした。
 すると……。
「ど、どうしたんですか?」
 俺が座るやいなや、涼子さんが寄り添ってきた。
「ふふふ、照れてるの? 可愛い」
 ふわっと、いい香りが俺の鼻をくすぐる。白い肌が、俺の視線を釘付けにした。
「ねぇ、ルードリッヒ?」
「はい?」にしても、その名前、まだ馴れないぞ。
「あたし、どう見える?」
「ど、どうって?」
「ふふふ……」

「はっ!」
 俺は流れた涎を拭った。ちっ、またやっちまった。勉強疲れか? 
 ノートを見ると全く進んでない。妄想疲れだな。ははは……。
 まぁいい、マジに何か飲み物をっと。俺は部屋を出ると、階段を静かに下りた。
「あれ?」
 リビングの方から、微かに明かりが漏れているのが見えた。
「ま、まさか、正夢?」
 どきどきと胸の鼓動が高鳴る。そっとドアを開けると……誰も居ない。
「はははは」現実は厳しいねぇ。ダウンライトのスイッチを消し、キッチンへ。
 冷蔵庫を開き、ミネラルウォーターをボトルのまま喉に流し込んだ。
「……っはぁ」美味い。ボトルを冷蔵庫へ戻そうとした時だった、背後に気配を感じた。振り返るとそこには……。
「ゆ、唯? 唯……なのか?」
 俺は暗闇の中、そこに居るであろう人物に向かって言った。
 誰か分からないのに、唯の名前が出るあたり、かなり意識してる証拠だな。違ったらどうすんよ俺。まぁ、実際のところ二択だからな。答えは二つに一つさ。ふっ。
 いや、ちょっと待てよ。もしかしたら、あちらのお方とも考えられる。それだったら非常にマズイぞ。何故かって? そりゃあぁた、唯の事知らないかもしれないし、何と言っても恥ずかしいじゃんか。

 ――そうだ。

 俺はキッチンの明かりを付けた。オレンジ色の光が、広がるように部屋を照らした。ハナからそうすりゃ良かった。安堵感も同時に広がる。
 改めて、キッチンを見回すと……。
「お兄ちゃん?」
「ゆ、唯」
 そこには、テーブルにグラスを目の前に置いて、椅子に座っている唯がいた。マグカップの中にはミルクが入っていた。
「お兄ちゃんも飲む?」
「はい?」
「ミルク」
 唯はにこっりと微笑むと、両手で包んでいたマグカップをススッと前に押し出した。
 ほんのりと、湯気が立ち上っている。ホットミルクかぁ。

 何て可愛いっ! 俺のハートもホットだぜっ!

 だが、対応は常にクールに。クールな男はカッコイイと相場が決まってるしな。
「ミルクなんて、唯はまだまだ子供だな」
 俺は少し笑って言った。

 ――だが。

「何よ、偉そうに。アンタにそんな事言われたくねぇよっ」
「!」
 俺の聞き違いか? それとも何か気に触る事言った? あれ? あれ? 唯の顔を見ると、眉は吊り上り、瞳は怒りに満ちていた。そっかまだ俺は……。と、思いつつ、
「ゆ、唯、どうかした?」
「何だよ、まだ何かあんのかよ。このバカ兄貴!」
 ぬわ~っ、何て事だ! あの唯の口から、そう、あの可愛い口からそんな言葉が出るなんてぇ。いや、出るはずが無いのだ。
 そうか、これは夢だ。そうだ、そうに違いない。
 もう一度寝よう。これが夢なら、覚めるだろう。
 寝るには、やはり、部屋に戻らねば。
「えっと、俺は部屋に戻るが、唯はどうする?」
「お前に、教える義務は無い」きっぱり、はっきり言い放つ唯。
「そ、そうでございますね。俺……いえ、僕はもう部屋に戻りますので」
「そっ、ならさっさと行きな」
 唯は、まるで野良犬を追い払うかのごとく、左手をシッシッと俺を仰いだ。
 く~っ、俺は犬かよぉ~。んや、これは夢なんだ。

 ――再び、そうだ。

 夢か否か、簡単に確かめる方法があった。
 俺は、自分で自分のケツをちょい強く摘んでみた。
「痛っ!」
 ば、ばかな。そんなはず無い。そうか、力を入れすぎたんだな。そうでなければ、痛いなんてありえねぇ。俺は否定するぞ、しなくちゃならんのだ。それが男ってもんだ。そうだろ? 我が同志よ。
 部屋に戻ると、俺はベッドにすぐさま潜り込んだ。朝になれば、きっとあの可愛い笑顔で、俺を迎えてくれるに違いねぇ。
 しかし、目を閉じると、唯の顔が脳裏に焼付いて離れない。あの豹変ぶりは何なんだよ。俺は悲しいぞ、唯。

 大丈夫、きっと朝になれば、この悪夢も覚めるだろう。

 俺は恐る恐るキッチンのドアを開け、
「お、おはよう」
 ちょっとかしこまった様に挨拶した。
「あら、おはようございます」
 相変わらずの和服に割烹着姿の涼子さんが微笑む。そして、食卓の方へと視線を移すと、そこには唯が既に座っていた。
「お、おはよう。唯」
「おはよう、お兄ちゃん。今日は唯の方が早いでしょ? ふふ」
 うおぉ~っ、はやり夕べのは夢だったかぁ!
 だよなぁ、唯に限ってそんあ事はねぇって思ってたぜ。
 今日の俺も、幸せ満点だっ。
「さぁ、朝食にしましょう」
 涼子さんが、優しい口調で言いながら、テーブルに朝食を手際よく並べた。

つづく

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