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Sister Syndrome 第三話

 ああ、天井が白い。

 ……白い? あれ? 俺どうしたんだっけ?

 ――しばし、記憶の整理。

 そうか、あの時、亜利未の本気パンチを食らって。

 俺は首だけを左右に動かし状況を確認した。保健室だった。そして、驚いた事に、亜利未がパイプ椅子に座っているのが見えた。寝ているようだ。

 まさか、亜利未が俺を? いくらなんでもそれは無理だな。絶対一人じゃ運べまい。真二か?

 そうこう思いを巡らせている間に亜利未が起きた。

「あれ? 起きたんだ」

「あ、ああ……」何、ちょっと照れてんだ俺。

「だいたいお前が悪いんだぞ」言いながら亜利未がそっぽを向く。

「まぁ、あれはほんの冗談のつもりで……」

「当たり前だ」向き直りながら人差し指を立て、俺の胸を突いた。

「あ、いや、その」

「まぁいい。今度やったら殺すからな」

「さぁ、それはどうかな」はぐらかしてみる。

「ぜぇ~ったい殺す」今度は中指を立て俺を威嚇。しかし、その言葉とは裏腹に、表情が柔らかいのが見て取れた。亜利未ってこんな顔もすんだ。

「兎に角、もうちょい寝てなよ。じゃ、あたしは行くから」亜利未は俺に背を向けると、その場を後にした。

「寝てろ……か」

 って、俺が黙って寝てる訳がねぇ。俺は唯の下校時間に合わせて迎えに行かなくてはならんのだ。これは、兄として使命なのだよ、悪いな亜利未。

 身体を起こすと顔面が少し痛むが、後は大丈夫だ。可愛げの無いベッドから出ると、入り口横にある鏡で顔をチェック。

「よし」赤みが多少残ってはいるが、時期消えるだろう。っしゃぁ、待ってろよ我が妹よ。

だが、まだ授業が残っている……やっぱ、寝るか。

 やっと放課後だっ! たっぷり寝て英気も養った。ここからが勝負だ。

 俺は早足で学校を跡にすると、唯の中学へと直行した。いやぁ、心が踊るとはまさにこの事、足取りも軽いぜ。

 十数分歩くと、目的の校舎が視界に入ってきた。いよいよだ……。

「お兄ちゃん!」唯は嬉しそうな顔を見せ駆け寄ってきた。俺は軽く右手を上げて、

「やぁ唯、今帰りか?」と返した。

 唯は俺の前に来ると、息を整えながら言った。

「うん、でもどうしてここに?」

「いや、ちょっと通りかかったから」

「なぁ~んだ、てっきり唯の事迎えに来てくれたのかと思ったのに」

 ちょっと残念そうに、むくれる唯。

 その表情が何とも可愛いっ! ぎゅぅっとしたいくらいにだ。

 そして俺は、笑いながら言った。

「そうすねるなよ、ホントは唯を迎えに来たんだ」

「ホント? 唯、嬉しいっ!」

 ぱぁっと明るく笑う唯が、俺に抱きついてきた。

「はっ」俺は首を左右に振り、我に返った。ヤバイヤバイ、また俺の妄想癖が出ちまった。

「ちょっとぉ、あの人さっきからニヤニヤしてて気色悪いのよ」

「うっわぁ~まじ? 先生呼ぶ?」

「やっぱ警察っしょ」

「だよねぇ」

 下校中の女子達の言葉が、俺の鼓膜を揺るがす。ちっ、手遅れか……。

 仕方ねぇ。

 俺はその場から離れ、様子を見る事を余儀なくされた。勿論、校門は視界に入っている。少し遠いが、完全な変態指定を受けるよりはマシだろう。

 ――十分。

 

 ――――ニ十分。

 ――――――三十分。

 遅い、遅すぎる。下校時間が過ぎに過ぎている。まさか、唯に何かあったんじゃ。まさか、誘拐……。ありえる、唯は誰が見ても可愛いからなぁ。

 君可愛いね。とか何とか言って、無理矢理車に乗せられて。それから……それから、営利誘拐って事はまずないだろう。俺んちは金在る訳じゃねぇし。

 やっぱ、在るとしたらイタズラ目的か。やばすぎる、こうしちゃおれんっ! 

 待ってろよ唯! 今、俺が助けに行くからな。

 大変な事になったぞ。どうする? まずは警察に連絡か? んや待てよ、連絡したばっかりに、犯人を逆上させてしまい、唯の身に更なる危険が起こるとも限らん。

 よし、ここは心配してるであろう涼子さんに、電話して不安を取り除いてやるのが男として勤めか。

 いやいや、電話口で錯乱して収拾が付かなくなったらどうする?

 ……事情を説明しないで、唯が帰って来てるかどうかだけ確かめる。うん、それが一番いいかもしれん。

 俺は走っていた足を止め、ズボンのポケットから携帯を取り出した。よくある二つ折りのタイプで、画面が横になってTVが見れる……んな事はどうでもいい。兎に角電話だ。

 数回のコール音の後、涼子さんが出た。

「もしもし?」

「あ、涼子さん?」

「はい? どちら様でしょうか?」

「あ、俺だけど」

「俺様、で御座いますか?」

 相変わらず、マジか冗談か分からない人だ。

「俺だよ、俺。分からない?」

「そう言われましても、俺様という方は、私存じないのですが」

「もう、この声で分からない?」

「……ああ」

「思い出してくれた?」

「アナタ様は、所謂、振り込め詐欺の方ですね」

 かぁ~そう来たか! まさかそう切り替えされるとは思っても無かったぜ。そんな涼子さんに乾杯。

 どうする? ……こうなったら仕方ない。

「俺だよ、ルードリッヒ」くぅ~この名だけは、自分から口にしたくなかったぁ。だが、今は一刻を争う、そんなちんけなプライドなぞクソ食らえだ。

「本当で御座いますか?」

 うおぉ~っ、完全疑われてる~。どうせ言う事になるなら、最初から言っておくべきだった。辞めそこねた大臣の気持ちが、ちょっと分かるぜ。

「ああ、正真正銘のルードリッヒだよ」くそ~二回も言う事になるとは。

「ん~左様で御座いますか。それでは、本物と仮定して、お話を進めさせて頂きます」

「は、はぁ」

 釈然としないが、話が前に進むなら、仮定でも家庭でも何でもいい。

「それで、ご用件というのは?」

「それだ、唯、唯は帰ってる?」

 聞いてはみたが、帰ってないのは明確。俺はその後の言葉を模索した。

「帰宅しておりますが、それが何か?」

「そうですか……って、はい?」

 とんだ骨折り損だぜ。

 俺は、足元にあった小石を軽く蹴った。小石は数回道路を跳ねた後、道路の端で動きを止める。取り敢えず、無事で良かった。

「ただいまぁ」

 玄関に入ると、確かに唯の靴があった。やっぱ帰ってきてんだ。

 リビングに直行してドアを開けると、唯と涼子さんが仲よさそうにお茶していた。

「あ、お帰りお兄ちゃん」

「お帰りなさい、ルードリッヒ」

「ただいま」

 二人の笑顔を見ると、さっきまでの苦労が吹き飛んで行く。ああ、やっぱり二人は俺にとって、回復の泉なのだ。そう、再認識した。

「先程なのですが……」涼子さんが、かしこまって話を切り出した。

「何?」俺は、三人掛けの椅子に座っている、唯の隣に座った。丁度、涼子さんの正面になる。

「変な電話が御座いまして」

 やっぱりぃ、俺の電話の事かぁ。ここは、白を切るしかねぇな。

「そ、そうなんですか? で、どんな電話?」

「ええ、それが変な電話なんですよ」

 だろうな、振り込め詐欺扱いされたくらいだし。

「へぇ、どんな風に?」

「ええ、今着けている下着の色を聞いきてきたんです」

「はい?」

「奥さん、今、何色のパンティ穿いてるの? って」

 おいおい、今時そんな変態いるんかよ。天然記念物だな、そいつ。

「それで、答えたんですか?」

「ええ、聞かれましたから一応……」

 こ、答えたんだ。何て律儀な人だ、この人は。

「で、何と?」

「何時も和服ですので、下着というものは着用していません、と」

 な、なにぃっ! 下着無しですとっ! それじゃ、今俺が見てる涼子さんは……涼子さんは~ノ、ノ、ノー(ぴー)って事かぁ?

 や、やばいぞ、俺の、俺の隠れた意識が、暴走しそうだっ! もう一人の俺が、脳内を駆け回り、そして、暴れん棒が目を覚ましてしまう。

 何と、健全な性少年には危険な言葉なのだろうか。

 バカ親父……俺、本当に間違いを起こさない、自信がありません。

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