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迷霧の陥穽 第二話

 瑞穂の申し出に、京平は意外な顔を見せた。こんな何処の誰とも知れない地図、全てが嘘かもしれない、逆に本当かもしれない。そんな不確かなモノを持って、その示す場所を探そうと言うのだ。

「マジで言ってる?」

「うん」

 瑞穂はにっこり笑うと、大きく首を縦に振った。意外な展開と言うのはこういう事をいうのではないか? 京平は今そう感じていた。

 二人は改めて、それぞれに送られてきた地図の検証に入った。まずは京平に送られてきた地図。何処かの町だと言うことは見当が付いていた。

「ねぇ、地図ってさ普通横長だよね」

 そう言って瑞穂が京平の地図を横にした。上下は未だに不明だが、お互いに向かい合っているので、そのどちらかが正面と仮定出来る。続けて彼女は、中央を分けるように曲がりくねった一本の線を指さした。

「仮にこれが川を表していたら?」

「川?」

「そう、川よ」

 京平はその言葉を興味深く聞き入った。

「川……か」

「だとするとさ、私達の住む町と似てると思うんだ」

「は?」

 京平達の住む町に川は存在していない。いや、ごく小さな名も知れない川はあったが、眼前にある地図とはかけ離れている。第一、町の中央部を横切る程の大きな川なら、流石の京平でも気が付いただろう。

「何処が似てるんだよ。この町に川なんて無いぞ」

「何言ってるのよ。在ったのよ……昔」

「昔?」

「そう、もう三十年以上も前の話だけど」

「?」

 どうしてそんな事を知っているのか、京平の脳裏にそう浮かんだが、それは直ぐに記憶の片隅に追いやられた。あまりにも自信ありげに言う瑞穂に、納得してしまったからだ。

「それじゃ、これが川だとして、この地図の向きは」

「私の方が正位置ね」

 瑞穂から見てその地図は、中央を分断するように川が流れ、下部が平野になっていた。そして、上部左右に丘と言うか、山と呼ぶに相応しい地形になっていた。問題の印は、右側の、丁度山と平野部の境目に付いている事になっていた。

「今、ここはどうなってたっけ?」

 瑞穂に問われて、京平は町の風景を思い出し、道を辿っていた。

「げっ」

「どうしたの?」

「ここは……一樹んちの近くだ」

「誰だっけ?」

「えっ!」

 また意外な返答が来た。そう京平は感じていた。同じ学校に通い、そして金持ちのボンボン。今時、ボンボンという言葉が適切かどうか分からないが、京平の中ではそれが当たり前だったのだ。

「知らないのか?」

「まぁ、何となくは分かるような気がするけど。あ、ねぇ君たちぃ、どうしたんだい? ベイビー、とかって言う?」

 前髪を掻き上げ、瑞穂は悪戯っぽく笑った。この表情は知ってるな、と京平は思った。だが、そんな事は関係なく、京平は一樹の事が嫌いだった。半ばひがみにも似た感情なのだが、金持ちでしかも美男子、今風ならイケメン。

 家も旧家で大きく、しかも町を見下ろすかのような場所に建っているのも、一層その感情を増幅させていた。

「そんな風には言わないと思うが、でも雰囲気はそんな感じだよな」

「でしょ?」

 そして今度は二人で笑った。

「でもあいつって、印象薄いよなぁ」

「ほらあの人って暗い感じだし」

「まぁ、あれで社交的だったら誰も対抗出来ないよ」

「見た目はかっこいいしね」

「そうだな」

 京平は少し苦笑いした。『見た目はいい』その言葉に嫉妬したのかもしれない。人は見た目じゃない、とは言っても一番最初に情報として入ってくるのは、はやり見た目なのだ。内面までは、その人物と付き合ってみなくては、誰も分からず、知らず。そして、理解出来ないのだから。

「どうしたの?」

 視線を伏せたのが分かったのか、瑞穂は疑問符を京平に投げかけた。

「いや、何でもない」

「そう、ならいいけど。それより早速行ってみない?」

「え?」

「善は急げって言うじゃない?」

 瑞穂がすっと立ち上がった。形の整った綺麗な足が、京平の正面で揺れる。視線を上に向けると、そこにはやる気に満ちた瑞穂の笑顔があった。

 記された場所は、京平の自宅からさほど遠くはない。

 とは言っても、この猛暑だ。歩を進める度に汗が身体のあちこちから吹き出てくる。地図の縮尺率は不明だったが、知らない町ではない。ある程度の距離は把握出来た。

「やっぱ外は暑いなぁ」

 言ってどうにかなるはずもない、と分かっていてもつい声にだしてしまう。そんな京平とは対照的に、瑞穂は涼しい顔で前を歩いていた。

「当然でしょ、夏なんだから」

「そりゃそうなんだけどさぁ」

 京平は軽い溜息を混じらせ、額の汗を左手で拭った。

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